家族の影響で歌右衛門さんや梅幸さん、二代目松緑
さんあたりの、That's古典歌舞伎から鑑賞の世界に
入ったのですが、親世代はスーパー歌舞伎に否定的
でしたし、私もこれまでも何度も見ていますが、
やはり歌舞伎とは別の現代演劇だろうな~、と思って
きました。
しかも今回は、さらに全く通ってきてないジブリ作品
と言うWハードル (笑)
(八)菊五郎さんによる、ジブリ「ナウシカ」歌舞伎も
見ましたが、原作未読で手がかりのない状態では
独自のルールで成り立つ世界観の作品の理解ぎ追い
つかず、何だか判らないまま終了。
今回も原作ありき、既読前提だったら困るな~、と
思ったものの、何しろ時蔵さんが、どう考えても
大好物(笑)な「朧~」ツナ様系「戦うお姫さま」をなさると
言うので、チケット確保
と言いながら、やはりアニメも見ず、予備知識なし、
いわゆる「ミリしら」、イヤホンガイド頼みで臨み
ましたが(懲りない)、今回はフツウに?楽しめました 。
理由は多分3つ
一つは何より勿論、時蔵さんのカッコ良さ。
もうエボシさまを堪能できただけで大満足(笑)
配役した方に感謝しかありません
お園やツナ様で見せた、時蔵さんの身体能力と、
女形で培われた、どうやっても崩れない姿の美しさは、
サンとの立ち回りでも遺憾なく発揮されましたし
(雪姫。八重垣姫と同一人物なのかレベル?)、鉄砲を
打つ場面など、殆ど「エリザベート」(笑)
衣装の紫に、ラメ入りのしけがポイントの髪形、
括り袴も凛々しいが、ちゃんと姫らしい冠もあり、
出自は語られませんが(どうやら原作も)、ジコ坊と
知り合いとなれば、かつてはミヤコにいた貴族の
末裔かとか、「瀧夜叉姫」の方向性を勝手に推察して
いました(笑)
窮地に立たされても気高さと気配りを失わない姿に、
従いていきます、お守りしたい、の推し愛炸裂(笑)
そう言えば、エリザベートも「理不尽と戦う気高い
お姫さま系」、歌舞伎と相性よいかも(笑)
ついでに、谷底に落ちた民と、鉄砲を打つエボシさま
と言うシチュエーションは、形と言い、人の倒れかたと
言い、まるで「レミゼ」の砦、でした(笑)
二つ目は世界観
歴史における中心と対立する地方、アウトサイダーを
描く物語は、いのうえ歌舞伎「阿弖流為」もそうでし
たが、古典にも「奥州安達原」や「忍夜恋曲者」などの
先行作品があり、今回のような世界観を持つ物語は、
歌舞伎との親和性があり、理解の手がかりになりました
何より和の世界で衣装が和服なのが、個人的には
安心して見られたのが良かったです
ちょっとだけ言えば、サンの服の丈はもう少し長いか、
材質を薄くふわりとさせて揺らすか、装飾は着物の
柄にしてもう少し腰回りをすっきり見せても良かった
かなとは思いましたが
また、今回のような動物(含・人間)がナニモノかに
変化する世界を描く作品は、「日本振袖始」や 「児雷也」
「天竺徳兵衛」など、動物やその化身などの登場する
作品が多い歌舞伎と相性が良かったのが何よりで、
特に後半の、笑三郎さんのモロの君と、中車さんの
乙事主の戦いのシーンは、歌舞伎の技術がきちんと
取り入れられていて、本当に素晴らしかった(です
〔後に詳述)
そして3つ目が逆接的かつ最大のポイントで、今回は
私には「スーパー歌舞伎」らしくなかったところかなと。
これまでのスーパー歌舞伎で苦手だったのが、見せて
いるものは外連なのに、内容が観念的、あるいは
イデオロギーが暗喩なしでストレートで語られる
ギャップとか、主人公一人だけが万能なスーパー
ヒーローな感じ、また取り上げる原作やそれを歌舞伎
にした時のビジュアルが、歌舞伎にしたかいがあるの
かな?話題作り、あるいは個人的好みの無理矢理
じゃないかな?と感じる作品もあり、もやもやして
いました。
今回も全体に強いメッセージがこめられていましたが、
主人公のアシタカがイデオロギーを語ることはなく、
みずからすべてを切り開くと言うよりも、ロード
ムービー的に様々な世界と出会い、目で見て知り、
成長する物語。
アシタカも万能でもないし、出会う世界も必ずしも
アシタカの思いに添うもなでもなかったり、ラストも
アシタカが全てを超越したり悟ったりして教訓めいた
事を言わないところが(原作がそうかは判りませんが)
違和感を持たずに済みました
特に印象的だったのが、主人公たちを取り巻く世界の
描かれ方の見事さで、とりわけ素晴らしかったのが、
前述のモロと乙事主との一騎討ち。
手にケモノのシンボルとしての頭を持って踊るのは、
「春興鏡獅子」など歌舞伎舞踊に多用される手法で、
互いにシンクロし、見得を挟みつつ描かれた対決は
全く歌舞伎ならでは、でしたし、ついでにカテコでの
二人?二頭?の挨拶も素晴らしかったです。
また、アシタカの相棒であるヤックルも、歌舞伎の
得意とする、人を乗せる馬の手法が存分に生かされ
大活躍
首の動きや歩みの前後移動でヤックルの気持ちが
ちゃんと伝わる「中の人」の塩梅が見事でした。
勿論、忘れてはいけないのが、子役が大活躍の「こだま」
たち
森と言う異世界におけるアイドルで、全くズルい
レベルの可愛さでした
更に今回、目を引いたのが、装置と大道具。
モロの君とサンが、崖の上で語り合うシーンの崖
セットのリアル高さは「俊寛」や「碇知盛」の幕切れ
レベルで、役者さんは怖くないのか、と思って見て
ましたし、一番驚いたのが、デイダラボッチが失われた
己の首を探してさまよう場面
音と照明で本体が舞台奥から現れて客席に向かい、
客席頭上を通り抜ける気配を演出しつつ、巨大に
作られた青い両手が、舞台奥から登場し、下から
支える黒子の動きで、実にアナログに揺れながら
近づく様子が表現されました
この、じわじわゆらゆらが一階客席に文字通り触手を
のばすさまは、三階席から見てもなかなかなリアリ
ティで、アナログならではの不規則さが、逆に生々
しさを表現していました
当節、巨大セットや大道具は、一度作ればコストが
低く、作り直しも容易?なプロジェクションマッ
ピングや映像のような、テクノロジーに置き換え
られる事が増え、それはそれで視覚的リアリティは
ありますが、この五感を刺激する実在はやはり舞台
ならでは。
巨大セットに道具、と言えば、かつては蜷川さんの
代名詞で、「メディア」の舞台まるごと池に巨大蓮とか、
それが通称になった、「NINAGAWAマクベス」の仏壇、
「グリークス」の振り子、「タイタスアンドロニカス」の
ロムルスとレムス像、など枚挙に暇がありませんが、
久しぶりに巨大道具でびっくりする舞台を見ました
一方、ジコ坊が人生について語る場面は「ハムレット」で
ハムレットがホレイシオに語る「今来るなら明日は
来ない、明日来るなら今日は来ない」に通じるものが
あったのも、個人的にはツボでした。
昔は新作とか言っても、振りとか趣向が古典のあそこに
準えてて安易で工夫がないな、とか思ってましたが、
やはり歌舞伎のお約束「世界」と「趣向」に無理にでも
乗ることのできる作品の方が、歌舞伎と言って説明
するのにも無理がない気が最近はしています。
何よりも、宙のりあり、現代語セリフなのは、スーパー
歌舞伎のアイコンそのものですが、いのうえ歌舞伎に
陰陽師、アニメにゲーム、野田版、三谷さんにインド
神話、など、様々な新作歌舞伎でこれらがごく当たり
前に使われる手法になってしまっている今となっては、
パイオニアである澤瀉屋さんが主人公をなさる、
最終的に、お約束の豪華衣装でフライングする、と
言う以外に、最早、スーパー歌舞伎と肩書きする
アイデンティティーって何だろうなぁ、と思ったり
しました。
いちいち古典だ新作だとカテゴライズするのも無意味
だし、古典だからと言っても稀にかかる「復曲」が
面白いとも限らない
つまりは新旧より「どの時期においても、今、の観客が
面白いか」が肝ですね
ともあれ、個人的には時蔵さんが見られただけで
十分満足でしたが、原作のファンの方はどうご覧に
なっているのか
チケットの売れ行きは凄いので、受け入れられて
いたら良いなぁ、いつも歌舞伎をご覧にならない方に、
歌舞伎女形の底力が伝わると良いなぁと思います