見終わってすぐ、最初の感想を書きましたが、
改めて
いくつか。
(1)まずこの映画、制作・配給が、現実、歌舞伎興業を
仕切っている松竹ではなくて東宝
しかも撮影は海外の方。
松竹なら、演技指導から劇場(とりわけ歌舞伎座)使用
とか、色々状況はかなり違っていたかもですし、
何より、公開タイミングが、音羽屋のダブル襲名と
合致
映画のポスターになっている「道成寺」も、6月
演目の「連獅子」も、上演演目と映画の内容が被って
いるし、タイアップや公開のスタイルも違いはあった
かも、とは思いますが、内容が歌舞伎役者の切磋琢磨、と
綺麗に纏める、にはなかなか壮絶な、とりわけ芸は
血筋か才能か、と言うのがキモな話だけに、その
エッジの立ち具合に、松竹さんが公認するようになる
のは、とか、或いは知る立場だけに、様々な逆の制約や
(お行儀のよい忖度)がかかったかも
結果的に「外側」の東宝さん仕切りでこそ、パラレル
ワールドのファンタジー目線で、成立させられたのかも
知れません
(戦後暫くは、東宝も歌舞伎興業に関わっていた時期も
あるのですが、それはもう昔のはなし)
しかし映画が話題になれば、当然、普段歌舞伎を見ない、
映画や出演俳優ファンの方も、歌舞伎座に足を(一度
でも)運んでみようか、と、ちらとでも思ってもらえる
きっかけにもなるかも、なのを、当たり前ながら現状は
静観の構え、なのは、ちょっと勿体ないような気は
します
(何もせずに増えれば、逆によし、か?)
またいま歌舞伎役者さんたちにもこの映画を映画館で
「見た」「見る」とSNSで発信される方てもいて、
普通、歌舞伎役者さんが出演されるなら、身内的に
「見て」でしょうから、何だか不思議な感じです
(2)映画劇中で使われる演目。
さすがに原作ラストの「阿古屋」とかは、そもそも
今できる歌舞伎役者すら限られているし、原作通り
にはならないのは無理ない一方、上方歌舞伎の超定番
演目の「曽根崎心中」を原作より更に丁寧に扱って
いるのは、寧ろ納得。
何よりも、中盤、師匠・半二郎の急遽代役での、
吉沢くん演じる喜久雄が体当たりで演じるのお初を
下から見上げた角度の美しさは、言われなければ
(劇中歌舞伎場面は殆どそうですが、とりわけ)普通に
歌舞伎の役者さんによる映像かと勘違いするほど自然で
驚きました。
また、クライマックスの、横浜くん演じる俊介(半弥)が
演じる同じくお初が、言わずと知れた名場面、床下に
匿った徳兵衞に、煙管を打ちながら心中の覚悟を問い、
徳兵衞が目の前に出されたお初の足に顎を載せて応える
シーンも、芝居としてそこを見せて当たり前なのですが、
俊介の病の足を、徳兵衞役の喜久雄が見る、と言う
場面でもあり、「足」の説得力は映像ならでは、
でした。
ただ、師匠の半二郎は上歌舞伎の名優の設定なので、
年配になってもお初を演じる、演じたい、と言うのは、
実例があるので、無理はないのですが、この映画で
言うと、それを演じているのが渡辺謙さん。
キャラ(ニン、とか言います)的には、映画で唯一、
謙さんが演じる舞台として、また喜久雄少年が
舞台袖
から半二郎と半弥の舞台を見て感動する描かれる
「連獅子」のような、江戸歌舞伎の荒事や、実事の
裁き役が妥当で、「曽根崎」もやるなら、高麗屋さんの
ように徳兵衞なら、な何とかな感じ。
連獅子姿はあれど、女形姿を見(せ)ていないだけに
「その代役」なのか?と言う違和感はありました。
謙さん半二郎、の若い頃の「伝説のお初」的舞台写真
とか映像とかが一瞬でも画面にあれば、もう少し
説得力があったかもなんですが。
またその「連獅子」を含む松羽目もの(能取りもの)も、
明治になってから、主に東京の歌舞伎で取り入れられた
ジャンル。
上方歌舞伎の方で、連獅子とお初を両方レパートリーと
される、は、私にはあまりイメージがつかないので、
そこはちょっとモヤモヤ。
勿論、いまの音羽屋さんのように立役も女形も「兼ねる」
役者の家系なら、梅幸さんのように義経も判官も藤娘も、
七代目のように工藤も弁天も新三も、当代のように
熊谷も政岡もナウシカも(笑)やるのは違和感ないの
ですが。
(3)特殊メイク
吉沢くんが大河「青天を衝け」で渋沢栄一を演じた
時も思いましたが、顔つきかのか、NHKの誇る特殊
メイクチームでも難易度が高いのか、顔が老けにくい
なあ、と思っていましたが、人間国宝に認定されての
娘さんとの再会シーンとか、さすがに瀧内さんと親子、は
苦しかった。
また、ベテランになってからの舞台化粧も、寄ると
お肌皺なしのツヤツヤ、で、そこは映画とは言え、
もう少し「老け」のリアルがあっても
(泯さん演じる万菊とか、俊介の迫真の、化粧落ちまくり
お初、に比べても落差大きすぎ)
(4)さらにおまけ
謙さん半二郎や喜久雄(後に三代目半二郎を襲名する
役なのでちょっとややこしい)、俊介や母親幸子たち、
歌舞伎役者たちの日常が随所にさしはさまれますが、
私のセンサーが働いてしまったのが「なんしか」
言う言葉(笑)
関東圏の人には殆ど馴染みのないこの言葉、私も
社会人になって初めて聞きました
意味合いはシチュエーションで様々ですが、「とにかく」
とか「とりあえず」みたいな、議論を省いてちょっと
結論だけを急ぐ、みたいな感じ
因みにほかに「なおす」(修理する、ではない)「いらう」
「えらい」(偉い、ではない)「ほかす」「必死のパッチ」も
最初はわからず
「すみません、それはどんな意味ですか?」
と真面目に聞いて、寧ろ驚かれたものです。
イントネーションだけそれ風、でなく、こう言う
コトバも「それらしさ」には大切かも
2回目、そろそろ計画します