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2008.06.10

「山桜」を見る

テアトルタイムズスクエア新宿

見終わってます思ったのは「篠原監督、かなり我慢したんだろうなぁ」と
言う事。
昨今過剰過ぎる描写や、見れば判るのに説明過多なセリフ、さらに画面の外、
例えばwebや関連本、関連番組などでのお節介などで、情報をこぼれるほど
詰め込んだ映画作品が席巻する中、最後まで見せず、言わせず、ト書きなら
「…」を多用して観客のイマジネーションに委ね、考えさせる演出は、まさに
簡潔で余韻溢れる藤沢周平さんの文体までを映像化させようとした感じでした。

篠原さんは元々「深呼吸の必要」や「月とキャベツ」は勿論、あの「命」でさえ
病院の外に降る雪を印象的に撮っていて、自然を撮るのが巧い人だと思って
いましたが、今回もまさに本領発揮。
人物描写や生活感では同じ藤沢作品を映画化、大ヒットを飛ばした山田洋次
監督にはさすがに及ばないものの、敢えて説明を排した潔い映像づくりは、
役者と自然の持つ力を信じた結果のように思いました。
特にラストは藩主の帰国の大名行列、手塚の母(富司純子さん)と穏やかに
笑うヒロイン・野江(田中麗奈さん)、そして一人端然と座る手塚(東山さん)の
3シーンがセリフなく続いて、その後の野江の未来を暗示して終わるあたり
やろうと思えばもっとドラマティックにも、藩主の裁可と野江と手塚のその
後を見せるとか何でもできたのに、しない。
じらしまくって何もしない。
篠原さん、正攻法で我慢我慢の美学を見せてくれた感じでした。


初時代劇という田中麗奈さんですが、現代劇でいくつか見てきたものより
その切れ長の目や小さいつくりの顔が髷や着物に似あっていてとても
良かったですね。
最近時代劇出演が増えている(今は「篤姫」出演中)稲盛いずみさんも
そうですが、個人的にはもっと時代ものに出たらよいのにと思います。
あとは総じて女性陣が素晴らしく、野江の実母役の檀ふみさん、婚家の
姑役の永島瑛子さん、そして何より最後の十数分だけ登場ながら、その
登場と共にがっちり画面をとらえてしまった、手塚の母役の富司純子
さんの存在感は見事でした。
そうそう、よく鐘下辰男さんのお芝居などで拝見する個性派俳優の
(つい最近ではトラムでリーディング連作でも拝見しましたが)千葉哲也
さんが、マザコンの野江の夫役で出演されていて、これが怪演の部類。
敵役の村井国夫さんも顔色なしのインパクトでした。

もちろん、いくつか不満な点もあります。
まずラストがセリフがない代わりに、主題歌である一青窈さんの曲が流れる
のですが、この音量が大きすぎ。
このあたりが篠原さんの現代的センスなのかもしれませんが、これじゃあ
映画のラストではなく、一青さんの曲のプロモーションビデオになってしまい
ます。
映画館の音響が良すぎたのかもしれませんが私の耳にはせっかくしっとり
してた映画のラストだけが大音響で興ざめでした。
そして何より肝心の田中さんが初時代劇だったので仕方ないとは思います
が、着物に慣れきっていなくて、歩くのも歩くだけになっていたところが
あったのがちょっと残念。

とは言え、最近のぐだぐだゴテゴテしたデコラティブな映画にはない清々しさ
一本芯のあるという印象の映画で、あれこれ作風を変えすぎるのでどう
なんだろう?と思っていたシノテツさんですが、今回は良かったです。
(ちょっと偉そうかな)

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