「Sisters」を観る
PARCO劇場。
長塚くん作品は「ラストショウ」も「アジアの女」も個人的なストーリーに
限定しておけば良いのに無理矢理社会問題を繋げるので興醒めした経験が
あるので、今回もかなり迷ったのですが、やはり松さんに杏ちゃん、鋼太郎
さんと揃ってご出演となれば見ないのも悔しいと行く事にしました。
結論、今回は作品が徹底的な内面追及で構成され、確かにストーリー的に
見終わってすっきりするどころか、落ち込んでいる時に見たら余計落ち込み
そうなダークさでしたが、扱われる児童虐待と言うテーマがぶれず、また
お得意のグロテスクさも理由のあるものだったので、これまで見た長塚さん
オリジナル作品の中では一番集中が途切れず見る事ができた気がします。
人によって捉え方は様々だと思いますが私は松さん演じる馨夫妻が泊まる
ホテルの部屋に纏わる因縁を、杏ちゃんが演じる美鳥が言ってから、「聞く
前とこの部屋の印象変わった?」と聞くところがポイントだと思いました。
連想したのは「お化け屋敷」と「梅干し」。
つまり恐怖感は知識と経験によって人が作り出す物。知らなければ怖くない。
そしてそれがラスト近く、馨が美鳥に自分の「経験」を語る事で、それまで
起きている事を楽観していた美鳥が初めて恐怖心を覚えるところとリンクして
くる構造の上手さ。それは馨も同様で、美鳥と礼二の親子を見たことで、
封印していた「恐怖」が心の中でもたげてきてふいに正気を失ってしまいそう
になるのも、「経験」が作り出したもの。
あるいは梅干しと聞いて口の中に唾液が溜まるのは梅干しを食べた経験のある
人間だけの現象で、予備知識のない、例えば外国人は食べるまではそうならない
とか、そう言う過去の記憶と経験がこの登場人物たちを、そして人間自体を
非常に支配しているのを実感しました。
そして美鳥の存在により、覆い隠していた自分の過去が噴き出し、それを出し
切ったラストに、ふと我に帰って立ち上がる馨の姿に、過去の想いによって
狂乱する馨がシテ、彼女を辛抱強く支え、ラストに彼女を狂気から救い出す
夫・信助がワキ、と言う夢幻能的なイメージを感じていました。
勿論役者さんの力の凄みも強烈。
特に鋼太郎さん。まさか鋼太郎さんを1年に2回もPARCO劇場で拝見する事に
なるとは思いませんでしたが(春先に「ガマ王子〜」を観ました。意外な出演作
でした)、前半はともかく、ラストあたりは確かにオセローやリチャード三世
ばりの狂気と爆発ぶりでした。
杏ちゃんは若干芝居がこの劇場、この芝居には大きすぎる気もしましたが、
感情の振れ幅の広い役を丁寧に演じていました。
松さんは相変わらずの熱演、そして唯一平常を保っている馨の夫・信助を演じた
田中さんが緩衝材の役割を果たしていて良かったです。
(田中さんは同じ長塚くん演出の「ビューティ・クイーン・オブ・リナーン」
でも大竹&白石の二大憑依系女優を相手に、安心感のある演技をされてました)
ラストに足元からヒタヒタと水が上がってくるところは、それが天井に写って
作る反射模様が美しかったですし、色々な意味で興味深い舞台でした。
それにしてもあれだけ過激なセリフを真正面向いてピクリともせず観ている観客
も、と言うかそう言う芝居の観客と役者が作る「共犯関係」とはスゴいなとも
思いました。
また個人的には信助が、どんな人間がどうやって作った料理かなんて興味がない、
料理と食べ手はそのものだけを介在させて向かい会うべきと言うセリフがツボ
でした。
おそらくは長塚さんの個人的な意見ではとも推察しますが、芸術作品、つまり
演劇も同じようなものと考えているのかもとちょっと感じました。
にしても大事なマイ包丁を他人に持ち歩かせるのは料理人としてはちょっと自覚
とプライドが足りないようにも思いましたけど。
いくつかの新聞評には馨が美鳥を救おうとする、という感じにこの物語を
評しているものがありましたが、私はどちらかというと、馨自身の心の救済の
方がメインだったように感じています。
帰りロビーで行定さんをお見かけする。本当に良く劇場にいらしてますね。
今年見た芝居の中ではいろいろな意味で一番考えさせられた舞台でした。
| 固定リンク
「舞台一般」カテゴリの記事
- 単に日替わりなだけで(苦笑)(2012.05.11)
- 蜷川さん「トロイアの女たち」は東京芸術劇場で、(2012.05.12)
- 「宮沢賢治が伝えること」を見る(聞く)≪小泉さん、萬斎さん、段田さんバージョン≫(2012.05.14)
- 「宮沢賢治が伝えること」を見る(聞く)《麻実さん/萬斎さん/段田さんバージョン》(2012.05.16)
- 長塚演出「浮標」、世田谷パブリックシアターで再演(2012.05.16)


コメント
かのこ様。
かのこ様も行かれたのですねぇ♪
長塚さん作品はちょっと苦手で(って、たいして観た事もないのに思い込みなのですが)
全く観る予定はなかったのですが、いろんな意味での評判と、
やはりあのキャスト陣に惹かれて急遽観てきました。
いやはや・・・観終わって、足、ガクガクでした(^-^;)
劇場から下の階までの階段を降りるのに、
手すりにつかまってやっとこ状態。
あの水が反射しているのはキレイでしたね♪
でも水がだんだん増えてきていて、なんだかこちらまで
圧迫感というか精神的に追い詰められてるような感じだったり、
真っ白な洗濯物やら、ラスト花がワァ~っと流れてくるところやら、
ゾクっとしました(>-<)
つい先日、「ガマVSザリ」をBSで放映していたのですが
鋼太郎さん!現代劇もいいですね~♪
今更気付きましたが、シェイクスピアやギリシャ悲劇とかでしか拝見した事なかったかも!
ガマVSザリの偏屈オヤジっぷりも、なんだかとても素敵でした♪
そう言えば田中哲司さんって、蜷川さんのとこの出身だったのですね!
今まで全く知らずで・・・(×0×)
この記事に全く関係なくて申し訳ないのですが・・・
きのう行った映画館でもらった冊子に
アンソニー・ホプキンス主演で「リア王」が映画化されるとの記事が。
3姉妹には
ナオミ・ワッツ/グウィネス・パルトロウ/キーラ・ナイトレイ
ただし、公開はまだまだ先のようで
「リア王(原題)」(公開未定)
と・・・(^-^;)
いつの事やら・・・という感じですが、楽しみです♪
遅くなりましたが、150万アクセス、おめでとうございます!
こちらこそかなり偏ったコメントですが(笑)
これからもどうぞよろしくお願いいたします(^-^)
投稿: 抹茶みるく | 2008.08.03 23:52
抹茶みるくさま
「リア王」情報、ありがとうございますっていうか
そのリアはすごすぎ!
グアルネスはリーガンでしょうか。こわそうだなあ~
これだけでエントリー作れるくらいの情報
ありがとうございます!(^^)!
投稿: かのこ | 2008.08.04 07:41
かのこ様
私も31日の舞台を見ました!長塚作品は初めてでしたが、グロテスク(?)との評判は聞いていましたし、本作品の劇評を読んで覚悟をしていたので、ショックの度合いは低かったです。ストーリー的には重く、まさに息を潜めて食い入るように見ていた今回は、1人で観劇が正解でした。戯曲の完成度は高いと感じました。構成・台詞は緻密で、1つの部屋のセットを2つの部屋として二重に使用するという演出手法も洗練され、照明も印象的でした。実はパルコ劇場は一種独特の雰囲気がちょっと苦手なのですが、その閉塞感が今回の戯曲にはぴったりでした。
実力派のキャストの中でも、やはり松たか子から目が離せませんでした。あのような狂気を背負った汚れ役を演じていても、どこか透明感があり、いやらしさがない。そのため、より悲劇性が高まっていました。この舞台を見て、10年くらいたって、松たか子のブランチで『欲望という名の電車』を見たいと思ったのは私だけでしょうか?
『SISTERS』のテーマを「馨自身の心の救済の方がメインだった」と見るかのこ様のご意見に賛成です。ラストシーン、パンドラの箱のように、一筋の希望が感じられたのが救いでした。
投稿: Mickey | 2008.08.04 12:24
Mickeyさま
今回は長塚さんにしては不条理設定がなくて
(それが好きという人には物足りないかもしれませんが)普通に見られてよかったです。
個人的には杏ちゃんの髪型はいま一つかもとは
思いましたけど(苦笑)
「欲望~」ですか~なんかすごくなりそう(^^ゞ
投稿: かのこ | 2008.08.05 07:39