「the Diver ザ・ダイバー」を観る(ポストトーク付き)
シアタートラム。
劇場一番後ろと脇通路にもの、多くの立ち見客。
前回の「The Bee」は短時間ながら強烈なインパクトのあり、食わず嫌いに
近かった野田さんの底力のようなものをまざまざと実感した、イギリス
人スタッフ&俳優とのコラボレーション企画の第2弾。
さらに今回は萬斎さんが監修として関わる「現代能楽集」の第4弾と言う位置
付けもあり、歌舞伎、オペラと演劇のカテゴリーを軽々と跨いでいく野田さんが
能をどう「料理」するか楽しみに伺いました。
タイトルは「玉の段」で知られる「海士」から取られたもので、前半はそんな
エピソードも僅かに出てきますが、最終的には息子の出世のために自身の
命を 引き換えにすると言う「海士」の母の悲劇的なストーリーよりは、物語
全体のヒロインである現代の女性、ユミ(キャサリン・ハンター)の深層
心理を精神分析医(野田さん)が(最終的には精神分析医「と」になりますが)
探る、その"深く入り込んで"の象徴のような意味合いにのみ使われている
ように私には感じられ ました。
(私が何かを見落としている可能性はありますが)
一番インパクトのあるエピソードは「現代能楽集」第1弾でも取り上げられた
「葵上」(というよりは葵に取り憑く六条御息所の)ストーリー。
おそらくはこのエピソードが、結婚観、恋愛観が今とは明らかに違うはずの
能が作られた(「源氏物語」が作られたという方が正確かも)時代と今とで
あっても、同じような例を見つけることができるい普遍的な、もしくは卑近な
(今回はかなり砕け過ぎに思えますが)内容なのでしょう。
今回は能だけでなく「源氏物語」本体からもストーリーは取られていて、
「雨夜の品定め」は司会・頭中将による、クイズショーになり、夕顔との一夜
不倫話(既にこの表現自体が砕けすぎですね)が、源氏(不倫相手の佐々木)と
六条(ユミ)のキャラクターを印象付けるエピソードに使われていました。
また原作のイメージよりも葵上のキャラクターが結構キツメに設定されて
いるのも特徴的で、源氏の携帯に電話してきた六条に、夫の携帯を奪い取った
葵が、着信履歴から電話を何度も執拗にかけ続け、六条を追い詰めるシーンは、
葵を演じる野田さんの甲高い声色もあって、 かなりぞっとさせられました。
また小道具を色々に見立てるやり方は今回も健在。畳んだ扇は携帯になり、
シャンパングラスになり、矢になり、マイクにも。
更に僅かに開いた扇はなんと切り分けたピザにも。
食べるにつれて畳み小さくなる使い方は見事でした。
そしてこれまで日本人のみで作られた「現代能楽集」よりも、今回の方が、
ストーリーや名前、小道具の使い方や、囃子方の起用(作調の傳左衛門さん
はじめ囃子方《鳴り物チームと言う感じですが》)とか、日本人がやる時は
「それでは《現代》と銘打つ意味がない」と避けるだろう事を採り入れていた
のも興味深かったです。
おそらくはこれが海外で上演されることを前提にしていたからだと思いますが
そう考えると、その前提で作らず、再演時にアメリカ公演を行った、「AOI」の
方が極めて西洋的だったような感じもしますし、今回も能、そして「源氏」の
物語が先に公演されたイギリスで、どう受け止められたのかも気にはなりました。
まあでも考えたら、日本で演じられている欧米の演劇についても、基盤として
存在するキリスト教的な考え方や、先行する各種の演劇を見る時に前提になる
西洋的な教養があるとしたら、それを私たちは100%理解しているはずもない
ながら、さまざまな作品に自分たちを投影したり、共感したりして受け止めて
いるので、受け止められ方が違うと言って、それを気にすることもないのかも
知れません。
全体的に表現が直線的だった「Bee」に比べると、今回の方が幻想的で、キリ
キリと迫るナイフのような怖さは薄かったですが、やはり何より情が濃い故に
不倫相手の男性の子供達までを巻き込む事件を起こしてしまう現代女性・ユミ、
「海士」の母性豊かな母、いたいけない少女「夕顔」、そして「葵」を取り
殺す「六条」まで瞬時に切り替えて鮮やかに演じていたキャサリンはやはり
すごい女優さんでした。
野田さんはじめ男優3人も身体能力の高さを存分に見せて完成度の高い舞台
でした。
個人的には「the bee」の方が判り易くて好きでしたけれど。
ポストトークには出演者4名が登場、事前に観客から集めた質問を進行役の
女性がそれぞれに振りながら進行という形でしたが、観る前に思いつく質問は
限られていて、一度見てからポストトークだったらよかったかもなあ(wowow
話とか)と思ったりもしました。
また野田さんはこの2作の共通テーマは「日本のサラリーマンのダメさ」加減
らしく、もう1作品同じテーマで作品を作って、最終的にはまとめて上演したい
とおっしゃってました。
(最初は1日に3作と言っていましたが、どうしても全部で3時間は超えると判る
と、「じゃあ、1日に2作品組み合わせてやって、2日で3作品見られるように
するか〜」とおっしゃってました。
ちなみにプログラムは1000円、全ページが袋綴じになっていて、開くとロンドン
公演の舞台写真がたっぷり掲載されていました。
| 固定リンク
「舞台一般」カテゴリの記事
- 「読売演劇大賞」決まる(6日補足)(2010.02.03)
- 新国立劇場のチケットが完売する。(2010.02.02)
- 「血は立ったまま眠っている」を観る(2010.01.29)
- 「血は立ったまま眠っている」の音楽(2010.01.29)
- 「薔薇とサムライ」ポスター(2010.01.26)


コメント
初めまして。私も「The Diver」観ました!すごく見ごたえあるレポですね!いっぺんでファンになりました。またお邪魔します~。
投稿: june_h | 2008.10.01 20:46
june hさま
はじめまして。
そしてコメントありがとうございます。
でも正直まだ私はこの作品の何かがわかっていない
気がしています。
ただ少なくとも野田さんが前回よりは「希望」という
ものを舞台に見せてくださった分、観客ごと救われて
いる気はしますが。
頭を使う観劇も時には必要ですね(^^ゞ
投稿: かのこ | 2008.10.01 22:48
私も同じ日に観劇ました!
同じ空間に居たんですね~
何だか嬉しかったりして。
しっかし、相変わらず野田さん、
スパッとした話し方でしたねぇ。
「短歌」云々の質問の答え方ったら
キッパリ☆サラッと木っ端微塵
質問した方もあれじゃ笑うしかないでしょ、って。
私個人は
今回の人間の情念も掻き分けて潜る感じの方がスキかも。
ラストの余韻とか特に。
投稿: minco | 2008.10.02 13:07
mincoさま
そうでしたか、いらしていたんですね(^^)/
トークの時に野田さんが英語でキャサリンさんに
さらっと説明していたのがなんかかっこよかった
ですねえ~(^^ゞ
投稿: かのこ | 2008.10.03 07:24