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2009.02.25

「MANSAI◎解体新書 その拾四『ひとがた(人形)〜自己と他者のディスタンス〜』

萬斎さん@芸術監督恒例企画「MANSAI◎解体新書」、その拾四は『ひとがた
(人形)〜自己と他者のディスタンス〜』と言うタイトルで人形劇である文楽を
素材に、演じるとは、生きているとは何かを考察する2時間半

そういえば前回の「狂言劇場」のパブリックシアター会員向け公演の後にやった
抽選会の「当たり」はこの「解体新書」の入場券30名だったというのをふと思い
出しました。

今回は何と言っても勘十郎さまです。私よりも家族が大の文楽好きなので、気合い
十分。
私も一応今月の国立劇場での公演「敵討襤褸錦」と「女殺油地獄」を拝見しました
ので、楽しみに伺いました。

1階両脇には結構な立ち見も出ていましたが、もう前回を見てしまうと驚きま
せんね(笑)。
ステージには既に源太の頭だけで衣装をつけていない(勘十郎さんは言い方が
ないので「骸骨」って呼んでますけど、何か良い言い方があったら教えてください
とおっしゃってました)もの、老女形、そしてお福の頭をつけた「醜女」の3体が
スタンバイ。
角度が悪くてあとから気が付きましたが奥に見台と座布団もあったようです。

まず萬斎さん登場。珍しくいつもの黒でなく紫の紋付(この理由はあとで判明)、
ささっと前口上あって(萬斎さんも「前回とはずいぶん趣が違いますねえ」と
笑っていたのでご本人もまだあのインパクトを覚えていらした様子)ゲスト呼び込み。
勘十郎さんはすでに黒子の衣装になっていました。
もう一人は分子生物学の福岡先生。洋服に足袋姿。

お二人のプロフィール紹介ののち、いきなり本題突入。
人形を遣うのを見てそこに生命がある人間のように見えるというのは何故なのか、
萬斎さんはおばあさまが亡くなられた時に「明らかに生きていた時とは違う感じが
した」とおっしゃっていたように、人間が人間であるというのは、何をそこに差を
感じているのか、というもの。
人形劇のルーツについての話、また萬斎さんからは人形劇は人間らしさを追求
するのに、人間がする能を始めとして仮面を使うものは、人間性を消して人形の
ようになるのを狙っているのでは?というような仮説が出ました。

そこでまず、文楽人形の実際の動かし方の、実演付きの説明。
衣装のない源太の人形で3人の役割を確認し、女形で動き方の基本(足の裏=
足遣いの手)を見せてもらったり、また「釣女」で活躍のお福頭の醜女が出てきた
時は、萬斎さんも乙面を出してきて動き方を見せて下さいました。
じっくり見ると足遣いは本当に大変そう。
そして動かしてない人形を足遣いさんが本当に人間の子を抱っこするように膝の
ところと首のあたりに手をまわして支えていたのがめっぽう可愛かったです。

そこで文楽の最大の特長である3人遣いについて、萬斎さんから「どうやって
動くかをどうやってあとの2人に伝達しているのか」という質問が出て、足遣いと
主遣いは足遣いが右半身を主遣いの左腹に密着させて動きを理解し、足遣いは
遠くて接していないので、より難しく、人形の肩の角度、それから主遣いの視線と
腰の動きから察するのだと解説。
しかしそれで両手を合わせたり本当によくできるものです。
そして見ていた福岡先生によると、3人遣いといっても、人形が糸で繋がって
いるというのが重要だとのこと。
それが神経として機能しているのは人間と同じ。人間は60億の細胞でできているが、
自己を何者か判っている細胞は0で、他の細胞との関係でや遺伝子がその細胞や
遺伝子を規定するという関係にある。遣う3人と人形で計4人、動くのはそれぞれの
パーツだけれども動かしているのは3人の全体で、他を律しつつ(たとえば
足だけが暴走しないように反作用する)全体のバランスが取れているというのは、
生命において大事なこと。これを人間では「動的平衡」と自分は呼んでいると
いうことで、いきなり結論みたいな話になってしまいました。

この後に義太夫の咲甫太夫さん(以前、「解体新書」に出演済み)と、三味線の
鶴澤清介さんが登場されて、「義経千本桜」から二段目「大物浦」の「幽霊」を、
知盛の人形にだけスポットライトを当てての上演。
ついで、なんと人形なしで、つまり「エアあやや」ならぬ「エア人形」で上演
されたのにはびっくりでしたが、もうこうなるとイマジネーションをフル稼働です。
直前に一度同じものを見ているので、勘十郎さんが頭の代わりにと白手袋をはめた
左手と、足遣いの両手、そして主遣いの右手と左遣いの右手の少し先にそれぞれ
体のパーツの先端をイメージしてあとは全部頭の中で再構築。
見る方もかなり頭を使いましたが、興味深いものでした。
福岡先生が感想を聞かれて「花粉症ですね」とおっしゃったのには大爆笑。
一応理由はあって、つまり花粉症というのは、身体がしなくてもいいバトルを
花粉とやっている状態で、それは何度も先生が言っているように、細胞自身が
何かと知っているのではなくて、その細胞を取り巻く他の細胞が働きかけることに
よって規定されているということ。
つまり自己(人形)というのは他者(遣い手)によって動きを規定されて成立
しているのだそうです。

ただし演じられた勘十郎さんによると、人形は衣装を着せて10キロくらいある
そうですが、それでもあった方が絶対楽だそうです。

ここで「解体新書」初の休憩が入って、最後に文楽人形と萬斎さんのコラボレー
ション。
能の「景清」が文楽にも伝わって「景清」というのがあるそうで、それをまず
勘十郎さんが遣う人形で(当然景清と三保谷四郎二役)見せ、続いて、萬斎さんが
前半小舞の「景清」を舞って、四郎との錣引きのところで、四郎役に勘十郎さんが
遣う人形が加わるという、人形と人間の共演。
人形が紫の紋付きに袴だったので、萬斎さんも揃えて紫の紋付きだったのでした。
演じ終えて感想を会場に求めるも、なんとなく微妙な空気。
立ち見の男性の勇気ある発言のとおり、妙、だったんですね。
萬斎さんはそれを「抽象度の違いからくる違和感」と表現されていましたが、
私には人形の圧倒的存在感の中で、萬斎さんが一瞬人形化しようとしているように
見えました。
ただどうしても(前半ちょっと触れてあまり盛り上がらなかった部分なんですが)
人間の顔というのが表情がある分情報が多くて、生々しい感じが妙に目立った
かもと。
人形の錣に見立てた扇を掴んだところはものすごく面白かったですけどね。

ここでも福岡先生の感想がなぜか「手が痛くてもシップだけじゃだめ」というのも
不思議でしたが(つまり、身体は全体でバランス(動的平衡)を取って出来て
いるのだから、痛いところだけを治療してもダメというたとえです)、そこから
萬斎さんが「新作」について勘十郎さんと談義。
新作をやろうとしても余りにも古典が良く出来ている(バランスが取れている)
ので、それを超えるものは出てこないかも。ただし外国の戯曲などをやるという
のはありかもと言う事で、91年にやった文楽「テンペスト」は今年再演する予定
だそうです。
(萬斎さんが91年のを見ましたと言ったら勘十郎さんびっくりしてました)
東京でもやるらしい情報。
また文楽には喜劇がないので、井上ひさしさんの「金壺親父恋達引」などやりたい
のだとか。
すかさず萬斎さんから「古典狂言から取っていただいても」とアピール。
さらに「『ゲゲゲの鬼太郎』みたいな妖怪物とか怪談とかは怖がってやらないん
ですよ」という勘十郎さんに「制約が多いならこの劇場使っていただいても」と
しっかり萬斎さんが劇場売り込みすると、勘十郎さん「いや、もう2年先まで
埋まってるとお聞きしました」って御調べだったんですか〜(笑)。
萬斎さんは「なんとかしますよ、ってあんまり言うと財団に怒られますけど」と
笑っていらっしゃいました。

これでゲストは退場。今回は実演メインの興味深みものでしたが、これで萬斎さんの
狂言ファンの中から文楽ファンが誕生するかも。
「演劇を心の平衡を保つ良薬として活用してください」という萬斎さんの言葉と
次回の開催予定の予告あって終了しました。

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コメント

かのこさま
詳しい「解体新書」のコメント、ありがとうございました。こちらは、楽しみに出かけた「おくりびと」、満席とかで、帰されました。当選葉書が届いているのにこんなのありかって、10数人の犠牲者?は、憤懣やるかたなし…。世の中ってこんなのあるんだぁと、いい年をして、ようやく世の中のカラクリに気付かされたのでありました。笑ってやってください。「解体新書」良かったようですね。なんとも羨ましいです。3月10日のスペースゼロの文楽でも見て、機嫌を直すことにしましょう。と言っても、勘十郎さんは、お出にならないんですけどね。
マスミ

投稿: マスミ | 2009.02.25 23:52

マスミさま
え~~~~~~~!!!!!
葉書があって入れないんですか、人が来るなら招待客不要ってことでしょうか。そういう扱いって映画にとってイメージダウンですよねえ。
改めてもう一度見に行くかどうか、考えてしまいますよね!
ううう~ん、それはクレームすべきでは?

投稿: かのこ | 2009.02.26 07:42

かのこさま
同意をいただいてありがとうございます。ちょっと悔しかったけど、これで一つ大人になれた(もうとっくになりすぎているっつうの!)って思って諦めました。その日に集金に来た、毎日新聞の集金の人に当たってしまいました。彼はすご~くいい人で、「代わりのチケットを絶対に持ってきますっ。」なんて言ってくれちゃって、可哀想だったかも・・・。
新宿ジョイシネマでは、「おくりびと」を3月いっぱい上映するとかで、もう、見に行ってやるぅ!!!では、また。
マスミ

投稿: マスミ | 2009.02.26 22:39

マスミさま
その毎日新聞の人、いい人ですねえ~!(^^)!
ぜひリベンジしてくださいね!

投稿: かのこ | 2009.02.27 07:49

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