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2010.07.18

「ファウストの悲劇」を観る(4回目)

毎回、複数回公演がある時は何回観るか迷うところで、勿論開幕前ですから
博打みたいな物。
今回は実は取っておきながら、取りすぎたかなぁと開幕前は思っていましたが、
始まってみれば、ぶっ飛び加減がストライクゾーンど真ん中で、毎回堪能させて
頂いています。

今回は中2階に男性客の立ち見がいました。
立ち見を見かけたのは初めてでしたが、それが男性客と言うのも珍しかったです。
(野田さんの芝居とかでは良く演劇青年らしき男性を見かけますが)

今回はこれまでで一番前方席だったおかげで見えた物が色々。
一番びっくりしたのは、放り出された首ファウストさんと完全に目が合ってしま
った事、というか首ファウストさんに「ガン見」されました(笑)
作り物と判っていてもやっぱりリアルで、あのすっぽんの下に胴体があるかの
ようでした。

また「七大罪」に受けまくるメフィストフェレスを近くで見られましたし、今回
ようやく奈落下がばっちり見えました。
1幕終わり間際に、掃除はもう一人に任せて、黄色のマグカップと林檎を置いて
弁当を食べている黒子がいたりするんですね〜
せっかくなら、新橋演舞場ばりにモニター作って、中二階や二階席からも奈落下
が見えるようにしたら面白いかも。

舞台に近いと、ワイヤーの音が結構聞こえてくるのがちょっと難でしたが、
ちょっと座りにくいベンチシートを我慢するだけの事はありました。

芝居が見えてくればくるほどやはり面倒くさく頭に浮かぶのは、これは悲劇か
喜劇かと言う問題。
メフィストフェレスは本当に悪魔なのか、と言う疑念は、見事なまでの白一色の
衣装に表れていて、そもそも自らの意思で魂を売ったファウスト本人が悪魔的。

まさか自分がやりたい放題やれているのが、何を犠牲に、何を担保にして手に
入れた物なのか、忘れる程ファウスト先生バカではないでしょうが、一時の
快楽を得るために、もっと重要な何かを失う、と言う例は、魂まで深遠な問題で
なくても今すぐいくらも思い付きますから(男女関係や金銭問題など)、そう
言う寓話として考えてみるのも一つかも知れません
(昨日見たブリューゲル展の寓意絵的世界に触れた影響?)

また悲劇は他人の冷静な目で見たら喜劇に見えるかもしれませんし、丁度上演
期間中に公演があったベルリオーズ作のオペラのタイトルで、今作のメフィスト
フェレスのセリフにも出てくる「劫罰」と言う客観的な言葉があるいは最適かも。
ちなみに劫罰とは長い期間受け続ける罰、と言う意味らしいく、「悲劇」最後の
独白でファウストが「地獄の苦しみから逃れられる日は来るのか」と恐れるそれに
当たるかなと推察しますが、あるいは24年間のやりたい放題自体が既に「劫罰」の
一部なのかも。

ともあれ、今日も博士は悩み、憂い、叫び、それ以上にやっぱり楽しそうにやり
たい放題でした。
今日一番のアクシデントは、アレキサンダー大王の妃の背中にメフィストフェレスが
貼り付けた巨大黒子が付け方が甘かったのか、付けるや否や、ドレスの縁まで
ずり落ちた事。
それを見た勝村メフィスト、慌てて付け直しに飛び込み、それ以上は時間切れで
動けず、舞台前面中央に伸びてしまいました。
すると萬斎ファウスト先生、すかさずスルスルと移動するや、メフィストフェレスの
お株を奪う、にこやかな微笑みを浮かべつつ、きっちりメフィストフェレスの背中
(というかお尻)に鮮やかな「蹴り」をお決めになっていらっしゃいました(笑)
全く、そう言うところ、勝村さんのフォローも凄いが、萬斎さん目ざとい。
結局メフィストフェレスはその後ようやく立ち上がり、ベンボーリオのところに駆け
上がったため、角を差し出すタイミングもギリギリになってました。
勝村メフィストフェレス、お疲れさまでした!

また法王の口に突っ込む筈のご馳走がずれたり、ファウストを思い留まらせようと
する老人役の中野さんが間と言うには長く沈黙するので一瞬こっちが焦ったり
(ああ言う時にジタバタしないのは年の功でしょう)、騎士フレデリックに
なったばかりのニ反田さんが、剣を吊るすベルトをしきりと直しながら通路を
駆けてきたので「あれ?」と思ったら、直ぐに下手に掃けてしまったり。
すぐに上手から何事もなかったかのように登場したので、きちんと留まらなかった
のか、何か不具合があったようですが、いずれもあれが生の舞台。
なさる方は大変でしょうが見ている方はちょっとドキドキしながら一度の体験を
楽しんでしまいます。

またハプニングではありませんが、カルロスに頼まれたファウストが、メフィスト
フェレスに「行け」と命じるシーン、確か今まではメフィストフェレスは上手に
消えていたのが、今回は「床下」にいて下手、ファウストの真後ろに事前に移動
していて、ファウストが振り向きざまに「メフィストフェレス行け」と言った
ような気がしました

そしてラスト。
博士相変わらず壊れまくりますね〜。
魂を売ったのを信じたくないのか、考えすぎて狂気に足を踏み入れているのか。
ファウスト先生だけが金髪(と言うか白髪)が肩まで伸びているのに、周りの
博士たちの様子は冒頭のシーンと全く変わらないのは何故なのか。
前に見た時は、ファウストの放埒は夢だったのではと思いましたが、博士たちを
演じる役者は悪魔役(横田さんは悪魔姿でタンゴを踊り、大川さんは女装悪魔で
登場)と天使役(清家さんは善天使役でした)も演じており、中でも清家さん
演じた学者だけが自分もファウストと部屋に残ると言ったりしているのを見ると、
ひょっとして学者3人も悪魔と天使が姿を変えてファウストの様子を見に来たの
ではないのかと。
何役も演じる「効果」をふと感じたりしました。

ともあれ、この「悪魔」とか「中世的な考え」のヒントとしては、隣のミュージアムの
「ブリューゲル版画の世界」展は今回、かなりヒントになりました。
悪魔さんたちのスタンプがあったり、ちょっと不思議なワールドに引き込まれ
ますが(笑)

おまけ。
カーテンコールの曲は未だ不明ですが、その直前、悪魔が飛び交い、最後に木場
さんが笑う場面の音楽も思い出せず唸り中。
どなたか判ればコメント頂けると嬉しいです。

おまけ2
↓下に書いたくせに「手」にも「足」にも注目するのを忘れました。
っていうか、見どころ多くてそれどころではなかった(笑)
ついでに言うと、ラスト、あれだけ嫌だ嫌だと言っていたファウストがメフィスト
フェレスが差し出す手には黙って手を委ねるシーンの濃厚さはちょっと
アブナイです。
考えたら、メフィストフェレスと同じ境遇になるんだったら、ファウストも結果良かった
じゃないの?などと思ってしまったり。いや、いけませんね(苦笑)

おまけ3
この芝居ほど幕間や終演後の観客が賑やかな芝居は久しぶりです。
みんな良くも悪くも「何か語りたくなる」芝居のようです。
とりあえずは「すごいねえ」と「あれ誰?(多くはヘレナは女か男か、か大林さんが
出ている話)」というのと「ファウストってこんな話だったっけ?」というのが
良く聞こえてきます。

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コメント

本日はご一緒してたみたいですね(笑)。
実は前日(土曜ソワレ)も観たんですが、マチソワでカメラが入っていた所為かかなりテンション高め、客席もノリノリでした(笑)。それに比べると今日はちょっと大人しめにも感じました。
それでも、ラストの博士独白の吸引力はますます凄まじいし、勝村メフィのトラブル処理能力(笑)の高さに舌を巻いたりと、楽しませていただきました♪
カーテンコールの曲は私も気になってまして…何かのCMで使われてたんですよねそれも最近まで。そのCMさえ思い出せばもしかして…。

投稿: RICC | 2010.07.18 22:09

RICCさま
確かに今日は客席おとなしめでしたね(平日ソワレの時よりは笑いは出てましたけど)
私の隣の方は完全にノレずに二幕後半は時計ばかり気にされていましたからゲーテの「ファウスト」を期待されたか、芝居構造が障害になったか、かなあとちょっと同情してしまいました。
しかし、黒子、どうするかな~と思っていたら、短時間に直しに来るとは、さすがサッカー選手、カウンターが早い!(^^ゞしかし、見つけた萬斎さんのうれしそうな顔はもっとすごかった(^^)/カーテンコールの時にお互いを見やっていたのも納得のお二人ですよねえ。

しかし最後の独白は何回聞いても「ハムレット」を連想してしまうのは、やっぱり金髪に黒衣装のせいでもあり、またそんなところまで来てあなた、まだ迷ってる?と突っ込みたくなる、第六独白(今ならやれる・・・のところ)になんとなく似て見えるからでしょうか・・?

あ~音楽、CMに使ってました?何でしょう。ぜひぜひ思い出したいです。

投稿: かのこ | 2010.07.18 23:30

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