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2011.09.22

「神秘域」を観る

神奈川芸術劇場。

先月「杉本文楽」でお邪魔したので、駅からの道には迷いはしませんでしたが、
雨は止んでいたものの、台風特有のすごい風で、車一台走ってない幹線道路の
横断歩道でよろけて身の危険を感じました。
(雨は止んでいて、ちょっとホッとしましたが)

個人的には体調不良でこのところチケットをスルーしまくった事情もあり、半分
意地もあって(笑)、帰り電車が走ってなかったらどうする!問題を見切って行った
訳ですが、今朝各種ニュースを見ると中途半端に引き返したりしていたら、却って
間違いなく「帰宅難民」になっていたのがありありで、結果的に東急東横線運転
再開を待って動いた形になり、(上演中ドキドキしてましたけど)、タイミングと
しては観て帰って正解でした。

それにしても「三番叟」×2と言う、「狂言劇場」でもやらない大胆な企画。

結局観客は…1/3くらいでしょうか、関係者みたいなオジサンたちが、空席を
あちこちウロウロするので、目立つ目立つ(笑)
結局観客も休憩後の萬斎さん版開幕前にちょっとずつズルズル前方移動して
いましたが、しかしこんなにガラガラの萬斎さん公演は初めてでした。
(当然ロビーも化粧室もが〜らがら)

張りだし舞台は足元の木組みが丸見えの「清水の舞台」風(そのため10列目が
最前でした)、橋掛が下手でなく、世田谷パブリックシアター風に真奥に伸び、
付き合って左に折れる構造。

まずは万作さん版。
背景に美保の松原のような松林の遠景のモノクロ写真(多分)が舞台幅いっぱいに
写しだされた「実写の松羽目」。
奥から面箱を持った深田さん(千歳:水色に鶴柄の装束)を先頭に、万作さん
(赤い格子の上に、緑の地に若松の装束)、囃子方、狂言方の地謡登場し、上手に
千歳、下手に三番叟、正面に囃子方、後ろに地謡の配置。
まず千歳が正面に面箱を置き、地謡に合わせて舞う間に万作さん三番叟身拵え。
深田さんの千歳、迫力満点でもう少しで三番叟踏むんじゃないかと思ったくらい(笑)
千歳は舞い終わると地謡は引っ込み、面箱を上手に移動させていよいよ三番叟。

万作さんには亀井パパの大鼓(小鼓3名は萬斎さん版と共通)で、万作さんの
柔らかな動きをフォローする感じが素晴らしかったです。
万作さんのは、次の萬斎さんのを観てから更に感じましたが、全く力みがなく、
踏むとか舞うとか言うよりはまるで「神事」そのものを見るような感覚で、確かに
揉の段から鈴の段の切り替え時の尋常でない息の切れが後ろの席まで聞こえて
ちょっと心配でしたが、儀式的、お祓い的な雰囲気をたたえ、素晴らしく柔軟で
素敵な「三番叟」でした。(〜19:50)

20分の休憩を挟んでいよいよ萬斎さん版。
松羽目の代わりは、幅は舞台の幅くらい、長さはその1/3くらいの幕に描かれた
稲妻。
1枚に等間隔に3つ稲妻が描かれたものが2枚、高さを違えて舞台の真上に吊る
されていました。
稲妻と言ってもいわゆる意匠としての稲妻と違って、軌跡までを追ったリアルな
写真を再現したように細い線も細かく描かれたもの。
その細い線がたくさん過ぎて、失礼ながら朝鮮人参の髭根のように見えてしまい
ました(失礼)

万作さんの時と同様に奥から千歳(高野さん)を先頭に登場。
千歳は面箱を持たず最初から鈴を左手に、面箱は後見が持参。
今回は「橋掛之舞」と言う小書きがあり、奥から伸びる「橋掛」には本舞台と
繋がって凸型にライトが当たり、また囃子方は大鼓(広忠さん)以外は上手に、
広忠さんのみ下手にと左右に別れ、中央を開けて座りました。

千歳の舞はなく、いきなり「揉みの段」に。
照明が当たって判りましたが、なんと萬斎さんの装束にも、吊るされた松羽目
替わりの稲妻模様と全く同じ模様が紺地に白く染め抜かれていました。
全くこんな台風の時期に稲妻模様なんて…(苦笑)
会場には外の風と思われる音が時々響いていて、これで三番叟踏んで台風煽ら
ないで下さいね、とかつい思ってしまいました。

しかも吊るされた幕の「松羽目替わりの稲妻」は、萬斎さんが力強く舞台を踏むと
連動して光る「電光掲示」な仕掛けになっていてびっくり。
萬斎さんが幕の真下にいた時など、「紅白の巨大衣装装置」かと(更に苦笑)
幾らなんでもちょっとやり過ぎじゃ…
と言うか、そちらに気を取られて、いつもなら強烈に目立つ萬斎さんの「烏跳び」も
目立たず、逆効果ではなかったかと…。

その「烏跳び」直前に萬斎さん「橋掛」の奥までさぁ〜っと入っていかれました
(小書き「橋掛之舞」)

また今回、鈴の段に替わるところでの千歳との「対話」は、いつものものではなく、
解説によれば通常なら「三日目に演奏される」小書き「子宝」が演じられました。

鈴の段で萬斎さんが懸けられた黒尉面ですが、いつも、また万作さんが懸けられた
物に比べてかなり大きかったような気がしました。

さて鈴の段でも「電光稲妻幕」は炸裂、正直、萬斎さんの動きにちょっと集中
できなかったのが残念でした。
舞い(踏み)納めは割合にあっさり、面を外し、鈴と共に箱に収めて、一同
奥に入って終了となりました。

稲妻柄の装束は、ちょっとヘビメタっぽく、なかなか斬新でしたが、電光稲妻の
仕掛けはやや奇を眩い過ぎた気も。

因みに雷(いかづち)を言えば菅原道真公。
萬斎さん、と言うと晴明、ですが、光る稲妻をバックに舞い、踏まれるのを見ると
個人的にはちょっと道真さん入ったか、なんて思いながら拝見してました。

終演は予定より少し遅く20:40。

外に出ると雨は止み、風も収まっていて、乗り換え案内や電鉄の携帯サイト、
またツイッターを確認したらどうやらみなとみらい線に繋がる東急東横線が間も
なく運転再開らしいとの事。
慌てて駅へ行くと、各駅停車ながら渋谷までの直通運転しているとの案内があり、
間もなく電車も到着して、無事に渋谷まで帰りつけ、やれやれでした。

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コメント

かのこ様、昨日はお疲れ様でした。私も会社早退して、京急で横浜まで出て、みなとみらい線で日本大通りへ行き何とか会場に辿り着きました。帰りはもうJRも動いていたので、JRで無事に帰宅できました。
万作さんの「三番叟」は見ていて、やっぱり『美』というものを感じました。あんなに息切れしていても、舞や台詞は完璧すぎるのがさすがだな…と実感。萬斎さんの「三番叟」は何か囃子方の位置おかしくない?と思ったら、橋掛之舞のためにあんな配置だったんですね~。それと稲妻の写真(アート?)は、私も「これ、根っこ?」と思って見てました。萬斎さんの足拍子に連動して光るのはいいけど、何かちょっとうざったさがあったり、動きに合っているようで合ってなかったりで、ちょっと微妙な感じでした。でも、「子宝」はなかなか観れないであろうと思うので貴重なものを拝見できて、おまけに万作さん→萬斎さんの2連続での「三番叟」はこれから先観れないと思うので、台風の中でも頑張って行ったかいがありました。(ちなみに、昨日は私10列目の端っこに座ってました)

投稿: 華菜 | 2011.09.22 23:11

華菜さま
お互いに(*^^)vお疲れ様でした!
お、10列、ということは最前列だったのですね~!(^^)!
私は後方から拝見してましたが、近くに記録撮影スタッフがいて、ちょっと昔、〇国立劇場でいやな思いをした
ことがあったので、微妙にビクビクしてました
それにもうガラガラなんだから「みなさん前へどうぞ~」とか言ってほしかったです
(割にチキンなんで前がガラっと空いていたのに前に詰められなかったワタクシ・・)

投稿: かのこ | 2011.09.23 08:55

かのこ様

お疲れ様でした。

前半と後半で
まろやかと鋭角という感想を持ちました。
萬斎さんは、小書き以外でも
演出の演劇性に合わせてなのか
前後半の差異をきわだたせるためなのか
通常の(能楽堂などでの)動きと変えているのかな
と思いました。

装束他、詳細を書いていただき
ありがとうございます。
私は劇場にたどりつくまでに
生涯で最も雨風に翻弄され
ノートが濡れたのと暴風雨疲れで
メモが取れませんでした…

投稿: susie | 2011.09.23 10:04

はじめまして。私は東横線ストップで行けなかったのですが、いったい観客数はどのくらいだったのかと思ってましたがやはり1/3ぐらいだったのですね。たった一回の公演、見れなかったのは大変残念ですが、あの状況で公演続行するという主催者の姿勢には大変に疑問を感じます。

投稿: noel | 2011.09.23 22:43

susieさま
確かに今回の萬斎さんのは能楽堂のものとは違うと思いました。空間の処理の仕方が違う(能楽堂は屋根が近い)のでそう見える部分もありますし、サイズにあった見せ方を萬斎さんが無意識にされている部分もあると思います。
それにしてもあの雨のなかいらしたんですね(私は幸い外を歩く距離が最低限でしたので)お疲れ様でした!!
いろんな意味で記憶に残る公演でした。

投稿: かのこ | 2011.09.24 11:01

noelさま
あの公演を多くの方が見たくても見られなかったというのは本当に残念だと思います。本当に。映像化してオンエアなりパッケージ販売するべきだと思います。

投稿: かのこ | 2011.09.24 11:06

かのこさま
詳細なレポ(舞台上のことも客席のことも)、興味深く読ませていただきました!
どうもありがとうございました。
あの日はおかげさまで、無事に帰宅できましたし、
「嵐で多摩川を渡れなかったなんて、いにしえの人っぽい〜」
などと良いふうに(?)考えてみたものの、
楽しみにしていた貴重な公演、開催されたのに行けなかったのはやはり残念でした。
今回、残念な思いをした方が大勢いたこと、おそらく行く途中に
危険なめに遭われた方もいたであろうことが私も気になっています。

投稿: しほぴ | 2011.09.24 20:55

しほぴさま
あの日、私は風雨が一番ひどい時に外に出ていないのでわからないのですが、「帰ってよい」と会社なり学校が言うタイミングが風雨最大、交通機関ストップ最大のタイミングにあたってしまったようで、会社も学校ももうちょっと考えいただかないと、出てしまってから戻る、という選択肢は難しいでしょうし、あの人ごみに巻き込まれたら動くに動けなかった人も多かったでしょうしねえ・・

私は結果論としてラッキーでしたがひとつ間違えば横浜で一夜、だったかもしれませんし。


投稿: かのこ | 2011.09.25 11:37

かのこ様
(ごめんなさい!前回、ミスタイプしていたままでした)

詳細なレポ、ありがとうございます!!
拝見して、また「三番叟、親子競演、観たかった~」という思いが強くなりました。おっしゃる通り、映像化でもして、見逃した観客救済してほしいものです。

払い戻しの手続きの電話も、「すいません」的な雰囲気はなく必要事項伝えるだけなので、「延期を検討する可能性はなかったのか?」など言いたいことも引っ込んでしまいました(窓口の方に言っても詮無いことですが)。


投稿: 柑子 | 2011.09.25 14:08

柑子さま
同じことは国立能楽堂のスタンスに対しても起きているようですね。
それにしても杉本さんの企画は「杉本文楽」も春の震災直後で延期、今回は台風まっただ中開催と何かと起き続けている気がします。

投稿: かのこ | 2011.09.26 08:38

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