国立劇場二月文楽公演「妹背山婦女庭訓」を観る
こう言う室内会話劇は、どう考えてもサイズの合った
専門劇場で見るべきですが、何しろ国立さま、未だに
絶賛貸し劇場求めて都内放浪中
(なのにファッションショーには会場貸すとか、いくら
限定的範囲とは言え、あぜくら会員としては納得
できません)
今月も前半は、品川区の「きゅりあん」、後半日程は
文京区の「シビックホール」
少なくとも「きゅりあん」(大ホール)は、今回の演目
には広すぎでは?
緊張感も、太夫さんの声も拡散してしまって勿体
なかったです。
因みに個人的には、都内でなら府中芸術の森の小ホール、
新国立の小ホール、SEPTのトラムくらいが良い気が
しますが。
で「妹背山」です。
今回時間の関係か、なぜか一部が「大内」飛ばして
「小松原」、「蝦夷子館」とばして「太宰館」、
そして「吉野川」と言う組み合わせ。
2部と3部は順番通りですが、3部は「金殿」関連段を
網羅したものの、ホール自体の閉館時間が21時らしく、
自前劇場ならこんなことは起きないのですが、それに
無理矢理合わせるためとしか思えない、2時間50分の
上演時間に対して休憩わずか1回10分!の超強行スケジュール(笑)
良いのか悪いのか見た日は観客がそこまででもなかった
ので大丈夫?でしたが、これで満席なら休憩10分では
とても無理かも。
一部は何より「妹山背山」
大判事に玉男さん、定高に和生さん、久我之助に勘彌
さん、雛鳥に簑二郎さん、そして大活躍する腰元小菊に
簑紫郎さん。
大好きな場面ですが、なんと言っても「熊谷」「寺子屋」
同様、親が子を犠牲にする話なので、常識で考えると
理不尽でしかないし、太宰家と大判事家が「ロミジュリ」
ばりに対決しているのを「太宰館」で見せつけられて
いるので、不穏な空気で始まるのが、結局、両方の
親が自分の子を手をかけるのは、娘を不幸にしない
ため、上司の命令に背いた息子の出頭を阻止するため、
なのが徐々に判る語りがもうじわじわ。
更に歌舞伎と違って人がやらない分、雛鳥の「輿入れ」が
グロくならずに済むのが良いですね
両床の演奏も素晴らしく、この理不尽!と思いながら
結局毎回泣きます
一方、文楽の定番、出来る御姫様の腰元の小菊ちゃんは
癒しの存在。
「小松原~」で久我之助と雛鳥を超速で結びつけ、
更に玄蕃の耳に吹き矢を打ち込んで「業務」妨害と、
働きが素晴らしすぎ(笑)ですが、「妹山背山」での
健気さがまた。
「2部」
鱶七(海)系ミッションパートは「金殿(歌舞伎なら
三笠山御殿)」のお陰で上演頻度も高く、きらびやかな
場面が多い一方、芝六(山)系ミッションパートは、
全般地味だからか、歌舞伎では上演機会が少なく、
私は今回がやっと2回目ですが、前回も文楽でした
しかも登場人物のが多く人間関係が複雑だし、「鹿殺しの
段」はともかく、「芝六忠義の段」は前回、見慣れない
事もあり全く頭に入らず終わってしまった為、今回
個人的にはこの段はリベンジ(笑)
今回、二人の子どもの活躍も健気だし(これが後から
考えると「妹山背山」同様、思いあう自己犠牲)、
やっと全体像を理解しました。
しかし、入鹿誅殺のための鹿殺しと、あばら屋の裏の
祠?(床本を読む限り、「どこから」出てきたか書いて
ない!)から正装の鎌足と采女さんがいきなり登場する
ダークファンタジと、親密な親子の情と言うリアル、
両方を平気で地続きにぶち込んでさえ成立させる
構成力が凄すぎ。
また天智帝登場の時は、小倉百人一首の歌を引用
したり、この時期の人たちの教養の幅広さにも驚き
ます。
多分もう1回見たら完全に理解できそう(笑)
「3部」
主役は勿論、勘十郎さんの遣われるお三輪ちゃん。
「ええとこ」のお嬢ちゃまで、動くとチリンチリン
音がする頭飾りが可愛い三輪ちゃんですが、大好きな
お隣の淡海さんの周辺(特に女性)に光らせる目は
鋭い(笑)
綺麗目女子がこっそり来訪するのを目敏く見つければ、
店の小僧にピンポンダッシュさせて確認(だか邪魔だか)
するとか、可愛い顔して嫉妬と執着と言う「ストーカー
気質」を見せます
そして「金殿」
どうも去年、新・時蔵さんのお三輪の「三笠山」を
見た印象がまだ強く残っているためか、或いはやはり
会場の広さが裏目に出たか、ちょっと物語世界が集約
されず、私の集中力が拡散になりましたが、結局
鱶七は「夫」に役だったとか言ってますが、良いように
権力闘争に巻き込まれて、理由も判らず通り魔に
刺されたも同様のお三輪ちゃんの哀れさが際立ちました。
でもやはり通しは見ごたえ抜群!
大満足。