国立能楽堂。
観世流銕仙会九皐会系演者さん総出演の会でした
万作家の狂言「貰聟」に、私でも100%楽しめる能「船弁慶」
いきなり幸弘さんが登場し、後半殆どフリージャズ状態の「盤渉楽」でのんびり
していた見所の雰囲気を一気に引き締め、と言うか度肝を抜きまくり。
続く仕舞も二人で袴能(造語)状態、糸もバッチリ投げた「土蜘」、津村さんの
かっこいい「鉄輪」、さらには喜正さんと広忠さんで一調「勧進張」に至っては
二人だけで世界ができあがっていました。
万作家の狂言は「貰聟」
嫁役の高野さんの代役は中村くん。
女役はあっても多分「釣針」の腰元レベルで、こんなたくさんせりふがある役を
見るのは初めてでした。
万作家の狂言公演ではないので、多くの観客は中村くんのキャリアを知らない分
プレッシャーもあったと思いますが、一度萬斎さんと被ったのと、父親役の万作
さんの左から袖を引っ張る座り姿がもう一つ形の収まりが良くなかったですが
大健闘。
萬斎さんの「酔っ払い夫」の出は能ファンメインの見所には新鮮だったようでし
たし、酔っ払った夫に「離縁だ!」と証拠の小太刀まで渡された妻が実家に帰り
事情を説明すると父親役の万作さんが「またかっ!」と叫ぶところ、また、良いが
醒めて迎えに来た夫を、狂言のお約束で演者名で呼ぶ場面での「萬斎!」が大
爆笑を呼びました。
萬斎さんは相変わらずのエンターテイナーぶりでした。
休憩、仕舞を挟んでいよいよ能「船弁慶」
かいつまんで言えば地謡が曲に(特に後半)に見合う迫力で、オーケストラと
言うよりゴスペルのよう(誉めてます)だったのと、ふにゃふにゃした大鼓だと
まるでコントになってしまう、アイの「波よ波よ波よ波よ…」のところが、広忠
さんのそれを超えるスピードでの大鼓のおかげで、緊迫感が半端なく盛り上がり
更に地謡が鳴り響き、幸弘さんの笛が鋭い音で嵐の空を切り裂くように響き、
まあそれはそれは、あの三間四方の空間から鳴っているものとは思えない密度と
重層感でした。
おシテは小柄な方なので、前シテも美しく、後シテはちょっと弱い感じはしま
したが、動きが俊敏で、なるほど義経が「生きている物と対峙するように」と
言うのが納得でした。
ワキツレが「この舟にはモノノケ憑いている」と言うと「そんな事を言うものじゃ
ない」とたしなめたり、ワキが話しかけたりする時に、アイがその相手を首を
廻して注視する、と言った写実の動きは、あまり能らしい感じはしませんが、
いったい誰に向かって言ってるのか(幽霊系の方?も多く舞台に登場されるだけに)
判りにくい時もありますし、どのアイもがそうするのか知りませんが、今回見て
判りやすいと感じました。
仕舞、一調、狂言、能と今回はたっぷり楽しめた3時間でした。